ピアノ弾きのお仕事

鍵盤音楽

 かなり著名なFMラジオのパーソナリティ氏の取材をした時のこと。その彼から「声を使う仕事ってどのくらいあるかご存じですか?」と問われたので「う~んアナウンサーと声優くらいしか思いつかないです。」と、正直に答えると、「そうでしょう?でも実はそれ以外にも沢山あるんですよ。」と、約20種類くらいの仕事内容を教えてもらった事がある。その後しばらく、その内容は話のネタとして割りと使わせてもらったものだが情けないことに、どんなモノがあったのかもう全部忘れてしまった。取ったはずのメモも何時のまにか無くなり、何分著名な方であったから、もうお会いすることも出来ない。それでも一つだけ印象に残っている知識として、声優とナレーションはどちらも声を使う仕事であっても業界を異にする、故にギャランティのあり方も大きく違うとのことだった。曰く「声優はまさに声による演技すなわち役者なのに対し、ナレーションは全く正反対で、いかに一切抑揚を付けずに語り続けられるか、が評価のポイントなので、両方とも得意としてこなせるタイプは滅多にいない、どっちかに分かれる」ということらしい。これは後に確認することが出来た。声優プロダクションの大手3社くらいが、声優部門とナレーション部門の両方を持っている、という事実を知ったからだ。日本の舞台・放送業界には往々にしてこういう現象があちこちに見られる。あくまでプロの世界に限るのだが、例えば音響業界はレーディングエンジニアとコンサート音響エンジニア(いわゆるPAエンジニア)とでは業界を全く異にする。そしてこれは万国共通ではない。我が国独自の業界区分である。ユーミンもサザンもレコーディングとコンサートを同じエンジニアが担当する、ということが(多分100%)無い、と言いきって良い。が、アメリカでは例えばボンジョビのエンジニアであるボブ・クリアマウンテンはレコーディングも全米ツアーも担当する。日本のこうした産業構造についても追々ご紹介していこうと思う。

 一方、クラシックの世界で幇間言われること。「音大を出ても食べていけない。」「ほんの一握りの人しか成功しない。」「アマチュアで趣味としてやっていくのが一番楽しいのよ」 ・・・ 実はこれ、決して間違いとは言わぬも、料簡の狭い見方に過ぎない、ということを指摘しておきたい。ここではピアニストを例にして述べよう。演奏ジャンルをこと「クラシック」に限定するならば、まあ確かにその通りであろう。だが、冒頭の「声を使う仕事」のように、ジャンルとか業界とか見えない境界線を取っ払って見れば「声」ほどではないにせよ、意外な程に活躍の活路は見い出だせるのである。前回の記事でコレペティトールという業務を紹介したのは、その一例を示したかったからでもある。現在国内には国立の音楽大学こそ東京芸術大学しかないけれど、多くの私立音大が存在している。ピアノ科のない音大などあり得ないから、毎年それこそ膨大なクラシックソロピアニストが誕生しているわけである。そりゃ大変なことだ。しかし、その全員がソロピアニスト養成システムの卒業生、というのが元々むちゃくちゃな事態であると、どうしていい加減思わないのだろうか、西洋音楽を導入して一世紀以上経つというのに。ほんの幼児期にピアノを始めさせられて音大入学まで続けさせるのは、そのメソッドが「ソロピアニスト育成ギブス」をはめて、外させないというものだからである。用いられるテキストは未だに200年も前の「チェルニーシステム」だ。チェルニーが、「ソロピアニストが備えるべき演奏技術の習得目的の最良テキスト」である、というのを、私は確かに認めている。しかし、それを全ての学習者に一様に課す、という悪しき画一主義が、結局ツブシの効かないペーパードライバーならぬペーパーピアニストを量産している。・・・ まぁこれはピアノに限らず西洋楽器のメソッドは、どうもヴィルトーソ育成を目標にしがち、という悪しき面が強いと思う。

 ギタリストには、あまりソロを弾けなくても和音主体の伴奏を付けるだけで食べていける人、っていう方はそこそこいらっしゃる。ましてやピアノは和音楽器の万能機能マシンだ。然り。ピアノは和音楽器なのである。これは私の主張ではない。あの大バッハ先生が言っていることでっせ。フィンガリングがおぼつかなくとも和音がしっかり押さえられれば、大体のSATB(ソプラノ・アルト・テノール・バス)の伴奏、合唱伴奏、ジャズコンボ、ロックグループのキーボード、カラオケ伴奏、バイオリンやフルート等ソロリード楽器伴奏、と、これだけ広範囲の演奏を十分全うすることが出来る、幾らかはともかくちゃんとギャラ付きで。ましてや「ソリスト」以外の演奏形態やピアノ(と言うよりシンセサイザー等の電子キーボード)を用いることで発生する仕事など、まだまだ沢山あるものだ。今後もドンドンUPしていこう、それで生計を立てられるまで稼げるかどうかは於いといて。そして、音大ピアノ科どころか殆ど独学の私が、ここに掲げたことをほとんど全部ギャラ付きで経験している。だから断言する。「趣味のレベルよりもずっと楽しく面白い」と。

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