多摩格差、その具体例(1)

首都圏交通事情(と言っても主に多摩地区)

 今回の再選ではなく、前回の都知事選で小池百合子が掲げた7つの公約の一番最後に「多摩格差」解消というのが「ある」。「あった」ではない。だって再選されたんだから、それは現在でも実行すべきで「ある」スキームなはずだ。れいわ新撰組代表・山本太郎氏が、彼女の前期知事時代の公約実行評価動画で「何のことか具体性が分からないので、これには評価を下しません。」としていた。論客の多くも「なんじゃいコレ?」扱いであった。確かに、具体的に何が23区に対して格差があり、その内どれの格差解消に着手すべきなのかのプライオリティも示されなかった。早い話何もかもが曖昧なまま、四年の年月をイタズラにヤリ過ごしただけなのだ。で、この「多摩格差」解消に関する限り、決して味方するのでは無く、悪いのは小池都知事だけでは無い、という事を検証したい。彼女の取り巻きもアンチ派も、待機児童やオリンピックや築地市場移転やらの問題に比べたら取るに足らない問題である、という暗黙の認識を明らかに共有しているからである。もっと呆れるべきは当の多摩地区住民たちだ。格差解消を唱えて前回当選したのだから、それをしなかったのは明白な公約違反であり、ならば今回の知事選では落とすのが当然だ。なのに、多摩地区こそ圧倒的な支持結果だったのだから、小池都知事から多摩地区が今後どれだけ継子扱いされようが、文句の言いようもないでは無いか。そもそも「多摩格差」は本当にあるのだろうか?具体例を示せるのだろうか?ある。確実にある。沢山ある。その気になれば前期間4年間でそこそこの実現が可能だったものさえある。数ある「多摩格差」のうち、最も誰しもが「ああ、それか」と思っていただけるであろう問題を一つだけ述べてみたい。 

 最初に基礎知識を一つ、「通勤五方面作戦」について簡単にご紹介しておく。末期こそ確かにひどい親方経営の国鉄だったが、じゃあ民営分割後のJR東日本が国鉄時代よりもサービス向上したかと言えばさに非ず。これは論じたら大変な事になるので、こと首都圏の通勤対策に限れば、ここでは全く向上していない、とだけ言っておこう。高度成長期から、通勤列車の地獄的な混雑を緩和するために、東京や基幹線の各始発駅から相当距離の通勤路線を複々線化する事業が行われた。北は東北・上越線と京浜東北線、北東は常磐線、東は総武本線、南は東海道・横須賀線と京浜東北線、そして西が多摩地区を貫く中央線という具合である。北・北東・東・南四方向の複々線距離は始発駅から最短でも30余㎞を有し、相変わらずの混雑ぶりとはいえ、随分と混雑緩和解消をもたらしている。ところが西方面すなわち多摩地区へのアクセス線たる中央線の複々線は新宿⇔三鷹間のたった13㎞で、唯一の未完区間なのである。北方面とは埼玉県、北東とは茨城(と千葉)県、東は千葉県、南は神奈川県と、他県とのアクセス線は全て複々線なのに、都内である多摩地区とのアクセス線のインフラが一番貧弱であるという皮肉なまま、30年以上も放置されたまま現在に至っている。この中央線複々線未完区間が、多摩地区の活性化の大きな足かせになっているのは明らかだろう。多摩地区住民ならば誰でも眼に見える問題である。着手するなら「中央線・三鷹⇔立川間複々線化」がまっ先のはずである。てか、これ以外に無いと言って良い程だ。

 そしてJRだけでなく、各方面に併走する民鉄との位置関係も、混雑度合いに大きく影響している。北=さいたま方面は関東の私鉄で最大規模の東武スカイツリーラインが、日本一の延長距離を誇る複々線を整備しているし、北東及び東=千葉方面は複々線区間こそ極く短距離ながら、京成電鉄が補完的な役割を果たしている。南は京浜急行電鉄が品川⇔横浜間のほとんど全区間、JR線と接近しており、こちらはデッドヒートの競合路線として機能している。一方西側はどうか。北西から順に東武東上線、西武池袋線、西武新宿線、中央線、京王線、小田急線、田園都市線、東横線と、都心部からの放射路線こそ沢山あるものの、互いに離れており競合関係は(全く無いわけではないが)緩く、いわば各々が半独占状態にある。しかも長らくその大半が複線しか輸送力を有していなかった。ようやく、ここ10年ほどで西武池袋線が数キロながら23区内を複々線化し、つい先だっては50年(半世紀!)の歳月をかけ、やっと小田急線の複々線が完成した。が、小田急のそれも実質的には23区内の区間であり、多摩地区には及んでいない。つまり多摩地区の複々線部分は、今だに杉並区3駅⇔三鷹のみしか出来ていないのである。民営化の直前、国鉄は中央線のインフラを疎かにしてきたことは反省しており、中野駅の大改良を含む立川までの複々線化を着手する意思表示はしていた。なのに「中央線をないがしろにした」から「親方(オマエラ)には今後任せられん」とされて解体、民営化されてしまった。

 幾ら世事に疎いハイソサエティ・レディの小池氏といえども、これが多摩格差の一例であることは、側近の誰かに質問すれば教えてもらえたはずである。だが質問した素振りさえ見えない。これでは公約は「ゴーストライターが書いた」と言われても仕方ないよね。なので向こう4年間、今度こそ議会の誰かに取上げてもらうように働きかけるしかないだろう。

 ここから私案の試案を述べる。三鷹⇔立川間の複々線化は都市計画決定してはいる。が、様々な思惑が錯綜しまくり、一向にまとまらず頓挫したままである。仮に取り組んだとしても、任期内(4年間)での竣工はまずムリであろう。また計画当初から40年近くも経過してしまった現在、複々線化も多面的な方法を検討していかねばならなくなってきている。その検討・議論も相当の時間が必須で、4年などあっという間に経ってしまうだろう。これら中央線複々線問題については、ネット上で沢山の意見を見ることが可能なので、ここでは立ち入らない。とにかく一番現実的な善後策を考えるべきだ。

中央線と京王線は新宿⇔八王子と、新宿⇔高尾で競合している。ところが朝の通勤利用に関してはJR東日本の中央線利用が圧倒的に多い。これは京王線の朝が非常に遅いためだ。朝のラッシュアワーに於けるターミナル駅までの速度は、京王線が万年ワーストワンの座に居座り続けており、京王は今後も何の手を打つ気もない。だから中央線問題は京王線問題でもある。バブル期に運輸省(現国土交通省)が混雑緩和の輸送力増強を鉄道各社に奨励するため、特定都市鉄道整備特別措置法(いわゆる特々法)を設けたのだが、京王電鉄はその活用を最小限に留めた為、輸送力こそ増強したものの、それ以外の設備投資を極度に吝嗇した結果、朝のスピードアップを全く行うことが出来なくなったのである。現在は新宿から約4㎞の笹塚から12㎞の仙川間の約7.2㎞を高架立体化推進中ではあるが、複々線化は施さないので完成してもスピードアップは僅かである。だから中央線の負担は大して軽減しない。しかも、2022年度中、という事は2023年3月末日が事業期限なのだが、現2020年9月の時点で未だに全く着工されておらず、用地取得率も70%程度である。用地買収を始めたのが2010年あたりからだから、そのペースだと終了は早くとも2023年位になりそうだ。そこからの着工となると、完成はどんなに都合良く見積もっても確実に5年は要するであろうから、2028年中であるとほぼ断定し得る。つまり8年後だ。まだまだ途方もない年月を要するのである。その間、中央線利用者の混雑緩和は解消されず、通勤客の苦痛もずっと続くのである。

 もう一点、考慮すべきことがある。京王は立体化工事の完成後に、将来的な利用状況の予想に基づき、必要ならば途中に駅を設けず笹塚⇔調布(つつじヶ丘)間に地下方式の急行線を複々線として建設する、と、当初は宣言していた。が、実は京王お得意のブラフであり、全くヤル気のないことが判明している。京王の説明する工事手法では、高架工事後に地下線を設置するのは殆ど不可能な工事であることがバレてしまったからだ。しかし、工事費については、ちょっと驚くような発言をしている。この複々線化の総工費は900億円というのだ。総延長換算で10㎞に達しようかという大工事にしては非常に安い。にわかには信じられないような試算だ。その程度の費用で済むならば、活用しない手はないのでは無いか。なぜ安いのか。まぁ、当事者たちからは本当のことは言えまい。ならば、こちらで申し上げる。地下鉄方式による複々線と言われれば、現在線の真下に新たな複線を掘って建設するものと思うのが当然である。が、京王線のすぐ北側には国道20号線、通称甲州街道が平行している。都内の地下鉄は幹線道路の直下に建設されているではないか。では発表しよう。

  • 甲州街道の笹塚⇔調布の真下には地下道が掘られている。恐らく八王子や高尾あたりまで出来ているだろう。日野市や高尾には太平洋戦争時下に広大な防空壕が掘られており、それは現在も存在している。ならば防空壕は、都心部へ向かってのアクセス道路と直結していると考えるのが妥当である。
  • この地下道が、道路なのか鉄道なのかは不明である。が、複々線の急行線に転用するならば、シールド工法による掘削は不要であり、強化と敷設・架線・換気口の工事のみで良い。安価な訳である。東京都は笹塚⇔調布間の地下複々線化工事をやれば良い。運営はもちろん都営地下鉄。既に笹塚から都心部は地下鉄都営新宿線となっている。
  • 都営新宿線は現在の本八幡⇔(新線)新宿から、本八幡⇔調布(あるいはつつじヶ丘)になるわけである。京王電鉄がそれを「イヤだ」と、駄々をこねるのであれば(まぁこねると思うが)、じゃあどうするか、という事になる。この場合は結構な回り道が発生する。次回に論じましょう。

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